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社外取締役座談会

(写真左)

独立社外取締役
横田 正仲

(写真中央左)

独立社外取締役
石村 弘子

(写真中央右)

独立社外取締役
(監査等委員)
五木田 彬

(写真右)

独立社外取締役
(監査等委員)
米澤 常克
  • 統合報告書2024より転載

三和グループでは、2030年のあるべき姿を長期経営ビジョンとして掲げ、中期経営計画2024の重点方針に取り組んでいます。
私たちは実効性のあるガバナンス体制の構築と適切な運用が、長期経営ビジョン達成の前提条件だと捉えています。
そこで本座談会では、「中期経営計画2024」の進捗と評価、コーポレート・ガバナンスの中核に位置づけられる取締役会で議論すべきテーマと、実効性の確保、ESGマテリアリティテーマの評価と課題、継続的な成長のために必要な観点と経営戦略などについて、4名の社外取締役に語り合っていただきました。

「中期経営計画2024」の進捗と評価

五木田 まず、「中期経営計画2024」(以下、中計)の進捗状況に関して、意見を交換したいと思います。2022年度と2023年度は、売上高や営業利益などの数値目標を達成できており、この点は大いに評価しています。一方で、長期経営ビジョンに掲げている「高機能開口部のグローバルリーダー」になるためには、量的な拡大だけではなく、質的な向上も目指していかねばなりません。特に、人的資本を拡充する道筋を示しておく必要があると思います。外部環境の変化に即した人材の育成方針や、より野心的なダイバーシティの推進目標なども、定性的な要素として、今後の経営計画の中に盛り込むことが望ましいと考えています。​

石村 私も、数値目標を達成した事実は非常に素晴らしいと受け止めています。ただし、持続的な成長や、経営の質的な向上という面では、やはり懸念があります。五木田さんも言及されたダイバーシティに加えて、デジタル戦略が進展していないと感じます。製造業の生命線であるものづくりの創出や、ステークホルダーへの新しい価値を提供していくうえで、デジタル技術の活用は不可欠です。デジタルトランスフォーメーション(DX)関連については、更に具体的な施策を期待しています。​

横田 現 中計の基本戦略に掲げている日・米・欧のコア事業の強化、アジア事業の成長力強化については、取締役会などで得られる情報だけでは、われわれには進捗状況の把握が難しい面がありました。もう少しメッシュを細かくした情報を出していただき、われわれ自身も地域別のグローバル戦略への理解を深めていく必要があると自覚しています。​

米澤 私たちの見通しをはるかに超える営業利益が計上できた要因は何だったのかという点も、冷静に分析すべきでしょう。最大の要因は、米州ODCの業績が為替や市場環境に後押しされ好調だったことですが、当社グループの実力や施策による成果だけではない点に留意しなければなりません。したがって、2024年度が終了した時点で3ヵ年の業績を分析・評価し、次期経営計画で数値目標を設定する際には、外部要因も含めた観点で分析を行い、見直しをかけてください、と経営会議などの場で申し上げました。​

取締役会で議論すべきテーマと、実効性の確保

五木田 続いて、取締役会で議論すべきテーマや実効性について、まず私から提言します。私がこれまでに参加した当社の取締役会では、われわれ社外取締役には、すでに完成している中計などの資料が配布され、それについての意見交換がなされることにとどまっています。フラットな取締役会の場でこそ、社外取締役の視点を交えて、経営戦略の中身をフリーディスカッションする機会があればよいと思っています。多面的な意見を交換していく過程で、三和グループのあるべき姿と事業ポートフォリオを見つめ直し、その成果を長期経営ビジョンや中計に反映させていくというのが、取締役会本来のあるべき姿ではないでしょうか。​

米澤 現在の開催頻度と所要時間では、そういう議論は難しいかもしれません。既定の年間スケジュールに縛られすぎずに、例えば「経営戦略の策定」といった案件を随時設定して、取締役会の議長が招集通知を発するような運営も検討すべきでしょう。特に、石村さんが指摘されていたデジタル戦略の中身は、大いに議論する余地があります。また、私の経験から、中計とは、戦略を中心とした定性面を重視し、定量面は、概念的数値目標とすべきだと、事あるごとに申し上げています。​

石村 デジタル戦略と人材面の戦略を担う組織体制を強化し、先を見据えた施策づくりを行うことが必要とされています。三和グループほどの企業規模と、成熟度の高い組織であれば、DXや人事施策は、経営を支える柱の一つになるはずです。まずはCDXOとCHROの役割を担える人材を、三和ホールディングスとして確保していただきたいところです。グループ全体としては、従来のITではなくDXの知識レベルを底上げしていくことが前提になります。そして、業務のレベルでは、自前での育成が難しいDXの専門的技術者、データサイエンティストやAIエンジニアの役割を、補完的にアウトソースするという判断もありだと考えます。

五木田 今の産業界で加速しているDXと人的資本経営の考え方を反映させ、成長基盤を固めていくという石村さんの提言は、とても重要です。一方で、当社グループもESGマテリアリティテーマの一つに「人」を掲げて、人材育成の取り組みに注力しており、現 中計では「デジタル化とものづくり革新」を、基本戦略の一つに掲げています。そこで、現在の組織形態や人事制度、ものづくりの施策を継承していくほうが良いのか、あるいは産業界のトレンドをもっと取り入れて検討すべきなのかを、まずは取締役会で議論する必要があるでしょう。

横田 私からは、取締役会の実効性に関して、私見を交えて少しお話しします。まず前提として、われわれは取締役会の場で、経営戦略・施策の進捗状況を評価しており、加えて執行役員からの起案の中身を議論し、その活動のモニタリングと監督・助言を行う役割も担っています。そして、取締役会の実効性評価とは、われわれの果たすこれらの役割が、企業価値の向上に有効に機能しているかどうかをセルフチェックする、PDCAサイクルの一環とも言えるでしょう。このサイクルは徐々に定着しており、年に1回の頻度で行うアンケート調査・分析と併せて、取締役会の改善に役立っていると感じています。個々の議題・起案に対しては、われわれ社外取締役が自由にいろいろな意見や質問を出して、執行側からの回答をいただくという流れができています。

五木田 自由闊達でオープンな意見交換ができている点は、そのとおりでしょう。ただしその対象は、横田さんもおっしゃっているように、個別の議題に加えて、グループ全体に横串を通すようなデジタル化とDX戦略、研修体系などの人材戦略、三和ホールディングスと各事業会社の経営管理体制、事業ポートフォリオなどについての議論をもっと充実させていくべきだと思います。

横田 たしかに、個別の議題ではPDCAサイクルを回せている一方で、取締役会全体を俯瞰すると、グループ戦略の中身を議論・立案する過程などに課題があり、この点は改善していかねばなりません。実効性を高めていくためにも、取締役会メンバーの多様性の確保は必須でしょう。

五木田 多様性というのは、価値観の多様性を指すと理解しています。専門分野の知見やビジネス経験、性別・国籍などを価値観の多様性を示す表象として捉え、会社の実情に合致した多様性を確保することはとても重要だと考えます。国籍に関して言えば、米州のODCや欧州のノボフェルムは、主な取締役が外国籍です。したがって、ホールディングスの取締役は全員日本国籍だけれども、グループ会社を見渡せば、たくさんの外国籍の取締役・執行役員が活躍しているという状況です。その中から何名かを三和ホールディングスの取締役に招く必要があるかというと、現時点ではまだ尚早でしょう。

横田 社外取締役4名の多様性に絞って言いますと、すごく良いバランスだと私は思っています。2022年には石村さんに加わっていただいて、取締役会の雰囲気も更に良くなってきたと感じます。そもそも、男性か女性かで多様性を議論すること自体どうなのかなと、以前から私は疑問を覚えていました。石村さんに加わっていただいて多様性が進展し、バランスが良くなったと申し上げた理由は、石村さんがITやデジタル技術に深い知見を持つDX人材だからです。商品やサービス、ビジネスモデルそのものを変革していく過程で、これからも適切な助言をされるはずです。

石村 かねてより三和グループが重視してきたPDCAがしっかり回り、事業の実行力が伴っている点は、とても素晴らしいと思います。ただし、今は多様性を確保しながらイノベーティブな組織を志向するなど、グループ全体が変わっていかねばならない局面です。変革を成功に導くには、新たな知識の取得がマストになります。そのためには従業員に加えて、経営陣も対象に加えた研修が必要だと思っています。

ESGマテリアリティテーマの評価と課題

横田 当社グループのESGは現在、3つのマテリアリティテーマ「ものづくり」「環境」「人」と、それを支える「グループの経営基盤」という4つの柱で推進しています。1つめのテーマ「ものづくり」の中には、「商品、サービスを通じた気候変動・防災への貢献」というマテリアリティが定められています。これに当てはまる商品の、2023年度の売上高を合計すると、約2,000億円。つまり、当社グループ売上高6,111億円の中の、およそ33%を占めているのですよ。この例からもわかるように、「ものづくり」は三和グループの強みになっていて、社会課題に対してかなり大きな貢献ができています。一方で、課題も山積しています。例えば2つめのテーマ「環境」では、CO2排出量と水使用量、廃棄物排出量を削減する取り組みが、各事業会社で進展しています。水使用量と廃棄物については原単位をベースに算出しているとはいえ、売上に比例して増加する部分を、今後どうコントロールしていくかが課題です。2026年度から本格的に始まる排出権取引の活用も含めて、対策を検討していく必要があるでしょう。

石村 3つめのマテリアリティテーマ「人」については、働きやすさとやりがいの追求に向けた施策をつくり、KPIを定めて行動されている点は良いのですが、グローバルな競争力を強化する戦略的な人材マネジメントにも注力すべき段階に来ています。人材ポートフォリオを深く考慮すれば、メンバーシップ型の人材が必要な部分と、ジョブ型の人材が必要になる部分が、明確に区分けできるはずです。この点を踏まえた人事施策を立案し、実行していくことが今後は更に必要となっていくでしょう。

五木田 石村さんがおっしゃったことも含めて、人事施策を今後どうしていくのかは、三和グループにとってまさに経営戦略の肝です。そこでまず、過去にやってきた人事施策を検証し、良い成果に結びついた施策は肯定しつつ、不足していた要素を明確化するのが得策だと見ています。その次に、グローバル人材の育成やジョブ型雇用の部分的な導入などを組み合わせ、組織のカタチと人材配置を2030年の目指す姿に近づけていくという流れでしょうか。また、近い将来、高齢化率の高い一人親方の皆さまをはじめ、協力事業者が大量引退される状況を見越して、施工プロセスの枠組みを再構築していくことも、「人」に関連した重要な経営戦略です。こうしたテーマについての幅広い議論が必要だと思います。

横田 私からは、ダイバーシティの推進を目的に、KPIの一つに掲げている女性管理職の比率についても言及しておきます。2030年度までに、連結での女性管理職比率を15%に引き上げるという計画ですが、もし、この比率だけを意識しているのであれば、あまり意味がありません。ダイバーシティの真の目的を踏まえて、2022年度からスタートしている、女性社員向けキャリアアップ研修の中身を充実させると同時に、採用計画の段階から入社後の育成プランを立てておくのが望ましいでしょう。加えて、一人ひとりが目指す仕事やポジションを定めて、キャリアパスを描くためのツールや研修体系を整備すべきだと考えます。ところで、これは製造業の特性として、男女の区別なく当てはまることなのですが、当社グループには決められたことに対してきちんと仕事をやり遂げられる強みがある一方、指示待ち型の人材が多いんですね。そこで、もっと自己啓発を促進するような研修があってもよいのではないでしょうか。

米澤 とても的確な助言であり、「2030年度までに15%」という目標を、なぜ達成せねばならないのかという本質的な部分の議論を深めたうえで、そのねらいをグループ内の従業員に周知していくことが大切だと、私も思います。

持続的な成長のために必要な観点と、経営戦略​

米澤 三和グループが、高機能開口部のグローバルリーダーというポジションを確立するには、コーポレート・ガバナンスの充実を図りながら、世界の市場で成長を継続せねばなりません。これを実現するカギは、今回の座談会でわれわれが指摘したいくつかの課題を、一つずつクリアしていくことです。個別の課題と真摯に向き合い、解決への道筋をつければ、中長期の成長につながる基盤を強化でき、現在よりも良い会社になれます。

五木田 業績が好調な今は、これらを解決していくチャンスだと言えますね。また、将来のリスクを先取りした経営戦略を練り上げる好機でもあります。諸々の課題を解決しながら、近未来の経営環境に即した業績目標や事業方針を打ち出していくことが、企業価値向上のカギになります。なお、経営戦略とは、経営陣だけで中身を固めて従業員に押しつけるものではなく、現場からの声も吸い上げて、実情を汲み取ったうえで組み立てていくものです。現場と乖離した経営戦略は、往々にして絵に描いた餅になってしまいます。この点は、要注意です。

米澤 最近、「GNH(国民総幸福量)」という指標をたびたび目にするようになりました。GNHは経済的な評価とは異なり、おもに精神面での豊かさの度合いを評価する指標といわれ、元々は1970年代にブータン国王が提唱したものです。生活水準や心身の健康、教育、自然環境、あるいは時間の使い方など、いくつかの指標によって評価し、算出されます。最近はGDP(国内総生産)―以前はGNP(国民総生産)―を補完する指標として、欧米でも注目されているようです。私はこの指標を、三和グループで働く従業員の幸福量を把握する尺度としても活用してはどうかと思っています。すでに進めている、従業員の安全と健康に関係する諸施策も、KPIで目標達成の度合いを把握しながら、総幸福量を高めていける良い取り組みですね。でも、更に一歩進めて、例えば手元流動性が盤石な状態を活かして、給与体系などをより手厚くし、結果として従業員の総幸福量を底上げするような策を講じてもよいのではないかと思うのです。会社を取り巻くステークホルダーの中で、従業員の重要性はますます高まっていきます。株主の皆さまへは、連結業績に連動した利益配分を行いつつも、コア事業・新規事業領域への投資や、人への投資を増やし、成長する姿をはっきり示していくべきでしょう。本当の意味で"良い会社"とは何かを全社運動的に展開する動きが始まればいいなと思っています。