社外取締役とアナリストの対話
「高機能開口部のグローバルリーダー」に向けた現状と課題

(写真左)
社外取締役
横田 正仲
株式会社日本能率協会コンサルティングに入社後、企業の経営戦略、生産・ものづくり、人材開発などについて助言・指導を行う。常務取締役、中国法人および欧州法人社長などの要職を歴任した後、2020年6月に当社社外取締役に就任し、経営全般について助言・提言している。
(写真中央)
社外取締役
石村 弘子
株式会社三菱銀行に入行後、1991年にシンコム・システムズ・ジャパン株式会社に入社し、マーケティングマネジャー、代表取締役などの要職を歴任。2022年に当社の社外取締役に就任し、IT・デジタル技術活用などについて助言・提言している。
(写真右)
UBS証券株式会社
シニアアナリスト
エグゼクティブディレクター
渡辺 真理子
1991年に国際証券株式会社入社。以来、複数の外資系証券会社で証券アナリストとして産業調査や財務分析に携わり、2004年にUBS証券株式会社へ入社。日本証券アナリスト協会認定会員として、企業と投資家の橋渡し役を担う。
- 統合報告書2025より転載
三和ホールディングスは、2022年度に長期経営ビジョン「三和グローバルビジョン2030」を策定しました。
その第一段階である「中期経営計画2024」を順調に終え、2025年度からは第二段階の「中期経営計画2027」を開始しています。新たな中計を進めるにあたり、現状の課題や今後注力すべき点などについて、UBS証券シニアアナリストである渡辺真理子氏をファシリテーターに迎え、社外取締役2名が意見交換しました。
中期経営計画2024の総括
渡辺 2025年3月末で、中期経営計画2024が終了しました。各種の業績目標を達成し、好調といえる結果だったと思います。あらためてどのように評価されていますか。
横田 前中計は、三和グローバルビジョン2030に向けた最初のステップという非常に重要な位置づけでした。コロナ禍が収束した直後で不透明な部分も多かった中で、日本と米州のビジネスが順調に推移したことで、全体の業績としては満足できる結果になりました。
日本と米州の好業績は、原材料ほか、各コストが高騰した分をしっかり売価に転嫁できたこと、また生産性を向上させ原価低減に取り組んだ結果といえます。価格転嫁がスムーズに受け入れられたのは、三和グループの製品・サービスが優れており、日頃からお客さまの信頼を得ることができていたからだと思います。
石村 前中計については、すばらしい結果でした。特に国内については、いわゆる「2024年問題」や「2025年の崖」など製造業における数々の難問を抱えながらも、よい結果となっていると評価しています。社外取締役に就任後、一番強く印象に残ったのは、「非常にしっかりとした組織づくりがされている会社だな」ということです。PDCAを地道に廻し続けた結果が、今回のすばらしい財務指標に表れていると思います。
渡辺 おっしゃるとおり、多くの投資家の方がこの3年間の成果を高く評価されている印象です。一方で、数字に表れない部分も含めて、課題として挙げられることはありますか。
横田 地域でいうと、日米が好調だった一方で、欧州は苦戦しました。その原因の1つはM&Aが思うように進まなかったことであり、ここをどう伸ばしていくかは次に向けた大きな課題といえます。アジアも黒字化できたことは評価できますが、中国やベトナムを中心に、まだまだ利益拡大を目指さなくてはなりません。
製品面では、防災や気候変動に対応した製品に成長の余地があると思います。これらは売上高の約30%を占めており、すでに当社の強みといえる製品分野ですが、それでもまだまだ伸ばせるはずです。次の成長に向けた重要なポイントだと見ています。

石村 デジタル化とものづくり革新による生産性向上については、地道に継続的に改革・改善していかなければならない分野だと思います。AIやIoTという新しいソリューションがものづくりにも影響する大波が襲ってきている現在ですが、慎重に・確実に・戦略的に推進していくことが重要です。デジタル化のためのシステムは1回導入したら終わりではなく、継続的なアップデートが必要です。
並行して、提供する製品・サービス自体のデジタル化も進めなくてはなりません。製品のIoT化や、サービス事業を展開するためにAIをはじめとしたデジタル技術が欠かせませんが、それらの技術に飛びついてもすぐに結果にはつながらない場合があります。効果を確かめながら推進することが必要であり、こちらも継続的に取り組むことが重要です。
中期経営計画2027において期待すること
渡辺 2025年度から新たな中計がスタートしました。今中計は、過去の3年とは違う意味で難しい時期を迎えていると思います。社外取締役として重視しているポイントは何でしょうか。
横田 一番は、M&Aを含めた投資の方針です。M&Aと設備投資、IT/デジタル投資で合計1,000億円を投資する計画で、これをきちんと実践していくことが肝になるはずです。投資がうまくいけば、例えば米州においては更なるシェア拡大や収益性向上などにつながっていくと考えています。これらの投資の重要性については、今中計に限らず取締役会で継続的に議論してきました。
石村 取締役会では、サステナビリティ経営の推進についても議論を続けています。そもそも当社が創業時に基本精神としていたのは「愛情、信頼、勤労」であり、まさにサステナビリティ経営の基本といえるものです。私は社外取締役に就任した際にこの基本精神をすばらしいと思いました。
創業時の基本精神がこれまで脈々と受け継がれ、それが現在の企業使命である「安全、安心、快適を提供することにより社会に貢献」することにつながっています。この使命を実行に移すためのPDCAも企業文化として強く根づいています。このぶれない姿勢が、成長の大きな原動力になっていると思いますし、サステナビリティ経営の推進を後押しするはずです。
今中計では、「規模」を拡大することも重要なポイントになりますが、一方で更に重要なことは、「質の向上」だと思っています。サステナビリティ経営によって、製品、社員の能力などあらゆるものの質を向上させることも、事業拡大を図るうえで重要なポイントになるはずです。
渡辺 今中計の最終目標として、営業利益1,000億円、営業利益率13.3%※を掲げられています。これはこの3年間だけではなく、過去から何十年と続けてきた努力が土台としてあってはじめて達成できる数字です。そうしたことを考えると、今後も長期にわたって、これまでと同様の成長を続けられるのだろうと思うのですが、より大きく成長するために越えなくてはならないハードルは何でしょうか。
- のれん償却前
横田 やはり人材育成や人的資本経営が重要ですね。当社に限らず、どの日本企業も人材の確保には苦労していますが、やはりそこは乗り越えなくてはならない高いハードルだと思います。
少し前に比べると、当社は広告などでの露出も増えてきました。それによって求職者の関心も集められています。更によい人材を獲得するために、広告以外にもさまざまな仕掛けをすることが重要になるでしょう。
当社に限らず、日本の製造業はトップダウンで規律を決め、現場が標準の方法をきちんと守ることでQCDを担保する、という構造が一般的です。それが強さにつながっているのは間違いないのですが、今後は各個人がより能力を発揮するために、自分の意見を自由に言える組織になっていく必要があるでしょう。
石村 組織づくりが重要だというのは私も同じ考えです。その際に必要なのが、社外の考えに触れる機会をつくることです。長らく企業のマネジメントをする立場にいて実感したのが、どうしても社内にしか目が向かなくなるということです。人材がよく育つ企業は、社内研修だけではなく社外研修や外部での学びにも力を入れています。そういった取り組みも視野に、これまでとは違う人材育成の手法も検討してもらえたらと思います。
横田 人事制度の見直しについても、社外取締役からたびたび意見を投げかけています。すぐに答えが出ない、正解がわからない難しいテーマではあると思いますが、時間をかけながらしっかりと議論を交わしていく必要があると考えています。
石村 先ほど前中計の課題としてデジタルを挙げました。今中計でもIT/デジタルへの投資が基本戦略となっていますが、それでも私はデジタル化が計画どおり進むかが気がかりです。
今、デジタル化に関しては、AIやIoTの活用をめぐり、急速な変化や進歩がみられる状況です。途中でどのような変更を余儀なくされるかわかりません。そのため、計画どおり今中計で設定している100億円という投資額で、さまざまな事態に十分に対処できるかは予測が難しいところです。途中で見直しをかける必要が生じることも想定しておく必要があるかもしれません。
横田 デジタル化による業務プロセス改善は地道に続けていくべきテーマです。先に指摘されたサービスや製品のデジタル化を進めることも、業界で高いシェアを誇る当社の責任といえますね。
渡辺 今中計では、成長投資と株主還元のバランスもポイントとなっています。三和ホールディングスはROEやROICといった資本効率性を表す数値が直近10年で飛躍的に向上しています。
私はこれまで多くの企業を見てきましたが、これほど改善している例はほかにありません。利益率が向上してきたことに加え、株主還元を重視してきたからこそでしょう。この姿勢を維持し、更に向上していくためのキャッシュアロケーションを示していることは、多くの株主に評価されているところだと思います。お二人はどうお考えですか。
横田 今回、配当方針の指標をDOEに変更したことは、社外取締役は皆、評価しています。資本効率性という観点で、過去から継続的に議論してきたことが、今回の指標変更に活かされたと感じます。
一方で、M&Aを含めた成長投資の想定額は、やや慎重な印象です。私からは、「これは必ずクリアすべきラインとして考え、将来を見据えてより積極的に投資すべきだ」とお話しました。特にM&Aは前中計でうまくいかなかったところなので、積極的に取り組んでほしいと思います。
石村 加えて、市場のIT人材不足の折、IT投資の判断については、アウトソース人材確保のためにも、判断のスピードには改善の余地があるかもしれません。
当社は大きな投資判断について、最終的にホールディングスとしての決裁が必要になります。そのため、判断のスピードが落ちることもあり得ます。成長投資を確実に実行していくためにも、投資判断のためには、特別に取締役会を開催するなど、運営面でも機能強化につながるよう少し工夫ができるとよいと思います。

三和ホールディングスのコーポレート・ガバナンス
渡辺 コーポレート・ガバナンスについても、社外取締役のお二人から見た評価をお聞かせください。

横田 2025年6月に、新任の社外取締役および監査等委員としてMichael Morizumiさんが就任されました。米国人であり、企業経営に加えアナリストとしての経験、知見もお持ちです。更に社内取締役の監査等委員として、山岡直人さんが就任されました。ボードの人員が拡充し、より心強い体制になったと思っています。
石村 私はまだ就任してから3年ほどで、ほかの社外取締役の方々の議論から学ぶところも多くある状況ですが、疑問などがあればすぐに相談に乗っていただけますし、女性活躍やデジタル化について相談をいただくことも多くあります。社員の方々とコミュニケーションを取る機会も設けていただいていて、風通しはよいと思っています。
渡辺 社外取締役として、意識されていることはありますか。
横田 製品・サービスの品質が適切かどうかという視点を持つようにしています。メーカーにとって、「よりよいものを提供していく」という姿勢が最も重要なので、それを強く意識して発言するようにしています。
石村 私は消費者としての視点で製品・サービスを見るように心がけています。当社の社外取締役に就任して以来、日常生活でもシャッターが目につく機会が増えました。消費者視点で、三和グループに必要だと思われる情報を積極的にピックアップし、フィードバックするようにしています。
今後の三和グループに期待すること
渡辺 今後の三和グループに期待することを、それぞれお聞かせください。
横田 今中計は、三和グローバルビジョン2030に向けたちょうど中間地点にあたります。長期ビジョンで掲げた「高機能開口部のグローバルリーダー」とはどういう姿なのか、今一度、時間をかけて議論し、定義づける必要があると感じています。
具体的には、どんな商品構成を目指すのか、真の意味でグローバル企業となるためにホールディングスと各事業会社の役割は適切なのか、といったことを整理する必要があるでしょう。社外取締役である私たちも一体となって考えていきます。
人的資本経営を推進する中で、社員のエンゲージメントも追求していかなければなりません。従業員は企業にとって最も重要なステークホルダーです。従業員が誇りを持って働ける、よいな姿を目指すべきか。そういった議論も、今中計がスタートしたことをきっかけに進めていくべきではないかと思います。
石村 創業の基本精神である「愛情、信頼、勤労」を社員がしっかりと実践し、「安心・安全・快適」な生活を送れる会社であり続けてほしいと願っています。
その一環として、女性活躍の更なる推進にも取り組んでいただけたらと思います。当社に限らず、建設業界は女性活躍の範囲がまだまだ狭い状況です。男女で区別するのではなく、全員にキャリアップできる機会が与えられ、個の能力を活かす経営をしてほしいと思います。
もう一つお願いしたいのは、PR情報の発信についてあらためて考えることです。当社のビジネスはBtoBであるため、「世間からの認知度は気にしなくてもよい」という認識が社内にあると感じます。でも、本当にそれでよいのでしょうか。実際、社会に貢献できる本当によい製品をつくっているのに、アピールがうまくできていないのではないかと感じてしまうことがあるのです。アピールに成功すれば、会社のイメージが向上し、さらによい人材が集まるはずです。社員もより誇りを持って働けるようになるでしょう。
渡辺 私も、石村さんと同じ考えを持っています。日本の三和シヤッター工業、米国のODC、欧州のNovofermグループと、それぞれが価値あるブランドです。多くの人が生活の中で何かしらの形で利用しているにもかかわらず、株式市場での評価と比較して一般社会においてはあまり認識されていません。うまくアピールできれば、もっと広く知られる企業になれるはずだと感じます。
今日の対話を通じて、さまざまな視点を持った取締役が、ステークホルダーの幸せのために議論し、努力していることが垣間見えました。株主だけでなく、社員やエンドユーザーなどあらゆるステークホルダーを幸せにできる企業になっていただくことを期待しています。貴重な機会をいただき、ありがとうございました。